【ドイツワイントピックス】ドイツ アール渓谷洪水災害のその後について

先月、またしても大田黒が長期でドイツ現地に行ってまいりました。
その時に訪問したクロイツベルクさんの現在の様子をお伝えする回です。
今回は、「ドイツ アール渓谷洪水災害のその後について」。
2021年にアール渓谷で143名が亡くなり、766名が負傷する大規模な洪水災害がありました。
皆さんの中でも、まだ記憶に新しいかと思います。
弊社取り扱いのアールの生産者クロイツベルクさんのワインで寄付金を募った際には、たくさんのご協力をいただき、改めましてありがとうございました。
▼2021年の災害の様子はこちら。
あれから4年。現在どういった状況なのかというのを、今回調査してまいりました。
100年に一度と言われる災害
この2021年の洪水被害。前回起きたのは1910年で、その前が1804年。
この地域では、約100年に一度の被害と言えます。
今回の災害は、年間平均降雨量540mmのアール地域で発生。
川の上流と下流の両方を含む全域で災害が起こった7月14日、たった一日で94mmもの雨が降り、当日までの合計でも490mmという大雨が降っていたという異常事態でした。
さらに、地形が狭い谷であり川幅が狭いことも災害を悪化させ、アール川の水位は5〜10mも上がり、川の速度も非常に速かったことで甚大な被害をもたらしました。
ぶどう畑も、洪水によって約10%の畑が破壊。2021年にはぶどうが栽培できたとしても、衛生上の観点から収穫が禁止されました。
その後、苗木が植え替えられ、翌年の2022年からは一部の畑でワイン生産が復活しています。
ルードヴィッヒさんとペーターさんに聞く
今回お話を伺ったのは、クロイツベルク醸造所の当主ルードヴィッヒさんと、従業員のペーターさんです。
クロイツベルクさんは被災後、もともと醸造所のあった村デルナウから約16kmほど離れたメッケンハイム村に一時的に移転。
3年間、メッケンハイムでワイン造りを行っていました。
そして昨年2024年に、再びデルナウ村に戻ってきました。
今年8月で一時的に借りていた醸造施設と倉庫の契約が打ち切られるため、醸造施設は隣村ヴァルポルツハイムに移設。現在は搬入作業を進めながら、醸造中です。
ルードヴィッヒさんは「2021年から、公私合わせて5回も引っ越した」とおっしゃっていました。
支援がつないだワイン造り
被災直後は、ワイン生産どころの状況ではなかったそうです。
とにかく生活を復旧させるのに必死だったとのこと。各地からたくさんの支援が届いたといいます。
しかし、そんな中でもぶどうの成長は待ってくれません。
VDP(高級ワイン生産者連盟)は、登録のある約200生産者に連絡をとり、協力を促して当番制でアール地方に次々と人を送り込みました。


※様々なVDP生産者さんの名前の刻まれた樽が並ぶ
支援にまつわる心温まる話
●フュルストさん、冷たいビールを大量に!
VDPの連絡が行き届き、当番が決まったころ。
ルードヴィッヒさんにフランケンのセバスチャン・フュルストさんより電話があり、「何か必要な物資はありませんか」と聞かれたそうです。
ルードヴィッヒさんは、「ハサミも作業用の手袋も全部なんとかあるから何もいらないよ。あえて言うなら冷たいビールが飲みたいくらいかな。(笑)」と冗談を言ったところ──
当日いくつものクーラーボックスにビール瓶を大量に入れて持ってきてくれたそうです。
「何日もまともなものを口にできてなかったから、それには本当に感動した」とルードヴィッヒさんは、私と会うたびにこの話をしてくれます(今回で少なくとも3回目・笑)。
●「いつも通りにしてくれ」
実際にセバスチャンさんとフュルスト醸造所のスタッフが畑で作業に取り掛かる際、「どうしたらいい?」と尋ねると…
ルードヴィッヒさんは、「何を言ってるんだ。君は私の目標であり夢でもある生産者なんだ。こんなありがたいことはない。君たちの“いつも通りにしてくれるのが最上”に決まっている」と笑いながら答えたそうです。
なんだか、少年漫画のようなかっこよさですね。
●2021年以降は「力の結集」
醸造所が壊滅的被害を受けていたため、収穫できたとしても醸造設備がない──
そこでレープホルツさんが中心となり、生産者仲間に声をかけ、樽を集めてアールの各生産者さんに送り届けたそうです。
2021年以降のクロイツベルクさんのワインは、まさに“ドイツの著名生産者の力の結集”ともいえるものです。
その他にも機械やタンクなど、数多くの支援があり、本当に助かったとのことでした。
現在の醸造所の様子とこれから
前述のとおり、クロイツベルクさんは現在もとのデルナウ村に醸造所を移設中。
かつて人気だったブッシェンシャンク(醸造所経営の居酒屋)は現在停止中。
旧ヴィノテークは倉庫として使用し、その手前の建物をリノベーションしてヴィノテーク兼事務所にしていました。
隣には、ルードヴィッヒさんの新居が建設中でした。
お二人にお話を伺ったあと、アール渓谷を車で走り、以前訪れたあたりを見まわりました。


4年経った今でも、まだ完全復旧とは言えない現状でした。
あちらこちらで、被災したまま復活せず商売をたたんでしまった様子も見受けられました。
廃棄物処理も各街に振り分けられ、遠く東ドイツのドレスデンまで送られているケースもあるそうです。
交通面では、電車が今年の年末にようやく電子化され復活予定。
日本の皆さまへの感謝と、今改めて飲んでほしいワイン
アール地方全体の復旧には、まだ少し時間を要しそうですが、
皆さんが応援してくださったクロイツベルクさんは、元の村での完全復旧に向けて着々と前進しています。
ルードヴィッヒさんより、別れ際に「
今回は、災害の話だけでなく、ルードヴィッヒさんのワインに対するこだわりもしっかりと聞くことができ、非常に満足のいく訪問となりました。
※「また最優秀賞獲れたんだよ」と笑顔のルードヴィッヒさん
そして、シリアスに臨場感を交えて語ってくれたペーターさん。
話の最後に「まぁ、自分はその時ここに住んでなかったんだけどね」とオチまでついた感じでしたが、それだけ大変だったということでしょう。
ぜひ、クロイツベルクさんのワインを改めて飲んでみてくださいね。
驚きますよ!
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